だが、折れた訳ではないなら構わない、と錆兎は断じる。まだ俺はやれる。どれほど力の差があろうと、この身が刀を振るえる限りは、絶対に諦めない。身を縮めて息を整える。呼吸のたび鼻から血が垂れるが、大した問題ではない。脳がぐらつき視界が歪むが、そんなのは些事だ。鳩尾の鈍痛は治まらぬが関係ない。まだ立てる。まだ闘える。<br><br><br>此処で引く訳にはいかないと、再び刀を鬼へ向けた。<br><br><br><br>「――――愚か者が」<br><br><br>鬼はやや怒気を滲ませた声で吐き捨てる。<br><br>気づけば鬼は錆兎の正面に立ち、いつ間に拾ったのだろう―――錆兎が地面に捨てた筈の日輪刀の〈鞘〉を片手で、錆兎の首元へおざなりに押し当てていた。<br><br><br><br>「これが真剣なら、今頃お前は死んでいるぞ」<br><br><br><br>鬼は力を込めていない。丸い鞘では何も断てない。理解しているにも関わらず、触れた箇所から己の首が削ぎ落とされるような感覚を覚え、錆兎は全身を強張らせた。<br><br><br>真っ直ぐに鞘を向けながら、鬼は呟く。<br><br><br>「鬼狩りから俺の力は聞かなかったのか………それともまさか、知らぬうちにここまで来たのか」<br><br><br>「…………!!」<br><br><br>図星を指され、錆兎は二の句を継げない。鬼と聞いたとき、俺はそれだけで鱗滝さんの元を飛び出していた。鬼についての情報など、それこそ、此奴がまだ、人を喰ったことが無いと言うことしか……。<br><br><br>「だとしたらとんだ軽骨だな。貴様のような身の程知らずがいるから、他に余計な犠牲が出る」<br><br><br>「………ッ、鬼風情が……講釈を垂れるな……っ」<br><br><br>錆兎は震えを怒りで捩伏せ、首元の鞘を弾き返そうと下段から刀を振り抜く。しかし予想に反し、その鞘は、僅かに表面が傷つくだけで、錆兎の剣を食らっても、全く軌道がぶれなかった。木製の鞘が、鋼鉄の柱でも打ったように硬い。
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