にこりと笑った弥一が、赤ワインを慶次に渡してやる。ワイングラスにでも注いで光に透かせばそうでもないのだが、まだまだ透明度の高いガラスは貴重であり、ワイングラスの値段も恐ろしく高い。このため試飲会では所謂ぐい呑みでワインを飲んでいるため、光が遮られて血のように見える。血を穢れとして忌避する面々は赤ワインを敬遠していたが、慶次には関係なかった。「蟒蛇うわばみのみつおがワインを飲んでいる隙に、わしがビールを頂こう」みつおや慶次がワインに夢中になっている間、足満はビールを飲み続けていた。ビール瓶等ないため、樽から直接飲んでおり、何杯目なのかは誰にもわからない。それほど深酒をしない足満のペースは、明らかに日本酒のそれよりも速い。「足満さん、それ何杯目だ?」「端から数えておらぬ。そんな事を気にしていては酒が不味くなるだろう」「いや、飲み過ぎは良くないんじゃない?」「この程度、飲んだうちにも入らぬ。それよりも貴様も飲まんか、折角のビールが温ぬるくなる」「ええ!? 普段と違って、凄い絡んでくるんだけど......」「やかましい。わしの酒が飲めんのか?」五郎の突っ込みに、足満は酔っ払いの定番台詞で返す。近くで聞いていた四郎は、触らぬ神に祟りなしとばかりにその場を後にした。「この唐揚げってのは美味いな。こりゃ飯が進み過ぎる」「勝蔵かつぞう! この酸すいだけと思っていたレモンの汁を掛けると更に美味くなるぞ!」「ちょっ! 俺はその汁、苦手なんだよ!! あーあ、全部に掛けやがった......」四郎同様、足満の絡み酒を避けた才蔵や長可、高虎は唐揚げを次々と平らげていく。あっという間に彼らの前にあった大皿の料理は綺麗になくなった。料理がなくなった後も彼らは酒を片手に談笑し、それはみつお以外が酔い潰れるまで続いた。男達が大騒ぎしている一方、静子は何度目か判らない溜め息をついていた。「――こうして鬼を退治した桃太郎は、おじいさんとおばあさんの許へ宝を持ち帰り、幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし」静子が茶々と初を先頭に、女性陣全員に上演しているのは、彼女謹製の紙芝居である。庶民向けに娯楽の提供と基本的な教養の習得、勧善懲悪かんぜんちょうあくのストーリーを選ぶことによる道徳心の向上を狙って試験的に作成したものだ。鮮やかな彩色が施された紙芝居の1枚に茶々が目を付け、静子がそれを実演したところ、大人達も交じるほどの大好評を博し、延々上演を繰り返させられていた。「私はそろそろ寝たいのですが......」「ならぬ! まだ他にも話はあるのじゃろう?」濃姫と市の勢いに押し切られ、結局静子は夜通し紙芝居を続ける羽目になった。
การแปล กรุณารอสักครู่..
