『今晩は、大場ななさん』<br>『......待ってたわ』<br> ひかりに包まれて、何年かぶりにキリンに出会った時、わたしはとても落ち着いていた。待っていたからだ。心から。このために、わたしは舞台俳優になったのだから。もう一度オーディションを受けるため、それだけのために。<br>『眩しいですか? わかります』<br> キリンが賢しげに「わかります」と言うのを聞き、わたしは笑った。<br> 何様のつもりなの、と詰め寄ってやりたいような気もした。<br><br> 数年前までは、いつかキリンに再会したら、きっと殺してやる、と思っていたくらいだ。この険しいばかりの、奪い奪われるばかりの世界にわたしを連れ込み、陥れたもの。それはキリンだ。正確に言えば、キリンとオーディションの形をした「舞台芸術の苦しさ」そのものだ。わたしたちはキリンのオーディションで、武器を手にまるで決闘のようなことをする。でもそれは正しく決闘そのものなのだ。奪い、奪われるばかりなのだった。そこからは決して逃れられない。舞台の上に立つことは、自分にそんな意図がなかったとしても、だれかのきらめきを奪ってしまうのだから。<br><br>『レヴュー、それは歌とダンスが織りなす魅惑の舞台。舞台少女のきらめきを感じれば感じるほど、照明機材が、音響装置が、舞台機構が、勝手に動き出す。芝居に歌にダンス。舞台少女のきらめきに、この舞台は応じてくれる』<br>『舞台は生きているんでしょう? わかってるわ』<br> そんなこと、今更言われるまでもない。舞台の全ては息づいているのだと、だからどれほど同じ脚本で、同じメンバーで、同じキャストで演じようと、同じ舞台はあり得ないのだ。舞台は生き物。全く同じものなどどこにもない、それが舞台芸術なのだ。<br><br>『オーディションに合格したのは、大場ななさん、あなたです。あなたは舞台少女の中で最も才能に恵まれながら、トップスターを目指すことのない、異分子でした。けれどもこうしてあなたは舞台俳優になり、オーディションに参加することとなった。さあ、トップスターになったあなたが望む運命の舞台は?』<br><br> 飄々と話すキリンを前に、わたしはただただ笑っていた。いつだかの光景と全く同じ、金色の、目を覆うばかりの光に満ちた場所で、わたしのかすれた笑い声が響いていた。憎しみばかりを感じていたけれど、意外と、会ってみればキリンに対する怒りはどこかへ消えていた。わたしはある舞台のかけがえのなさを、きらめきに満ちた世界の苦しさを、全部知っていた。逃れられないのだ。舞台少女になりたいなんて思っていなかった。トップスターなんて興味がない。才能があると言われようが、興味ないわ。そう思っていた。けれども今や、永遠の一瞬を知ってしまったから、修羅の道とわかっていても、もうそこから逃げることはできない。あるいはキリンは、それを意図していたのかもしれないけれど。<br><br>『そんなの、決まってる。......第99回聖翔祭、99期生のスタァライト第1回公演を』<br> 舌の上にのせた、懐かしい響きを持つその言葉は、とびきり甘美だった。 ...
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